【執筆報告】リモート営業を制する法
2021年01月08日 (金)
コンテンツ
はじめに
りそな総合研究所機関紙【りそなーれ2020年12月号】への寄稿を行いました。
私自身のインサイドセールスの経験や、営業コンサルティングの現場の知見から、現代におけるリモートセールスの在り方について、提言を行いました。コロナ禍において、ほぼすべての企業の営業担当者が思うように営業活動が出来ず、非常に苦しい日々を送られていると思います。しかし、考えようによってはコストを掛けず、時間をかけずにライトな接触を数多く行うことで、訪問営業に勝る営業成績を残すことも可能であると考えております。
デジタルトランスフォーメーションと併せて、災い転じて福となすために、是非リモート営業の強化に取り組んで頂ければと存じます。
記載内容に関しての著作権は弊社側にある記事ですので、内容は弊社コラムにて掲載させて頂きます。また、実際の紙面につきましては、弊社ホームページのメディア掲載ページに掲載しておりますので、双方とも是非ご一読ください。
現在大いに世をにぎわしている「鬼滅の刃」の名ゼリフを文中に埋め込んでみました。ちょっとした「いたずら心」ですので、ご笑覧いただけますと幸いです。
インサイドセールスでの悲劇
何年か前の話である。私は日本の商社から外資系コンピュータ会社に転職をした。採用の職種はインサイドセールス。2020年現在のコロナ下で求められる、非対面セールスの原型だ。電話やWEBサイト、メール、FAX、郵送などを駆使して、訪問せずに顧客にセールスを行う。国土の広いアメリカにおいて、顧客訪問を営業の前提に出来ないことから発生した手法である。
私はそれまでも訪問型の法人営業職に従事し、口のうまさと愛想と元気のよさでまずまずの成績を上げていた。だから、どんな世界であれ営業の数字なら上げられるとタカをくくっていたのだ。しかし残念ながら、その軽い考えが間違っていたことに気づくのは遠くない未来である。
オンライン商談システムなどない当時、ひたすら電話でお客様と商談をする。声という情報を頼りにひたすらお客様に商品の提案をするのだが、当然要件が終わるとすぐに切られる。これまで多用していた、たいした用事が無くてもお客様を訪問し、情報交換という名の雑談を行うことも出来ない。ビジネスにおいて、電話は明確な要件が無い場合にかける性質のものでは無いため、お客様と仲良くなる手段としてはうまく利用できなかったのだ。
意気揚々とインサイドセールスの世界に転職したものの、鼻っ柱を折られてしまった私。それまでの訪問営業の当たり前から脱却し、一人前のインサイドセールスとして機能し始めるのに実に半年もの時間を要してしまった。
これは、筆者が体験した日本におけるリモートセールスの黎明期での悲しい出来事である。当時の私は、営業活動というものに、多くのパターンが存在すること、そしてそのパターンごとに成功の法則が異なることなど考えてもいなかった。今から考えると、若気の至り、よもやよもやだ。しかし、この後工夫を重ねて、訪問営業からリモートセールスにフィットさせ、数々のセールスアワードを頂くことが出来た。重ねてきた試行錯誤から体系化してきたノウハウは、現在セールスの非対面化に戸惑っているすべての法人営業企業がすぐに取り入れることが出来る内容だ。各種コンサルティングや研修講師業で伝えている内容の一部をお伝えしたい。
リモートセールスは別もの
まず、大前提としてリモートセールスと訪問営業は全く別物であることを認識すべきである。通常の訪問営業のスタイルをそのままリモート環境に持ち込んではうまく機能するはずがない。機能させるには、思考の大きな転換が必要なのだ。
まず、訪問営業とリモートセールスでは、得られる情報の量が全く異なる。固定電話を中心に実践していた私の体験当時と今では、ツールに違いはあるだろう。現在では各種のビデオ通話ツールが開発され、リモートの環境でも、疑似的に顔を突き合わせた対面営業は可能となっている。相手の表情という情報が加わった点は確かに大きい。しかしそれでも、やはり訪問営業とは情報の量が全く違う。増えたとはいえ、情報が相手の顔と言葉しかないのだ。ましてやコロナ禍の中、相手がマスクをしている状況だと、ビデオ通話ツールを使っても電話でのコミュニケーションと情報量はさして変わりなくなってしまう。商談を進めるには圧倒的に情報が足りない。
訪問営業として優秀な人間は、顧客先に訪問して商談を終えるまでのプロセスの中で数々の情報を入手し、商談に活かしている。例えば以下のような情報である。
【事務所に到着するまで】
最寄り駅の駅前の状況、人が行列しているお店、事務所がある建物、建物の立地特性、など。
【事務所に到着してから】
受付の様子、待合室のディスプレイ、貼られているポスター、商談中の他のテーブルの様子、社用車のメーカー、内装のコンセプト、会議室の設備、応接室のディスプレイ、オフィス・工場の活気、社員の服装、建設業許可票、など。
【担当者と会ってから】
担当者の所作、背格好、服装、装飾品、持っている小物、利用しているIT機器、など。
新規顧客への訪問の場合と、ルート営業での訪問の場合では、必要な情報は若干異なるものの、優秀な訪問営業パーソンは上記のような情報を入手し商談に活用している。用途としては、主に2つ。担当者と自分との類似性を見つけて懐に入り込む為と、顧客の課題に仮説を立てる為である。情報収集力を駆使して、顧客との良好な関係を築いた上で、顧客の思考を先回りして気の利いた提案につなげるのがデキる訪問営業なのである。
リモートセールスの場合、これらの情報入手は困難である。基本的に顔意外に目に見える情報が無いため、訪問営業時に比べ圧倒的に少ない情報で戦わなければならないのである。同じやり方で成功するわけがないことがお分かりいただけるだろう。リモートセールス向けの方法論を確立しなければ、同様の数字を作る事は出来ないのである。
リモートセールスでの商談成功の秘訣
情報入手面で不利なリモートセールスで成功するための法則。それは徹底的な対話準備と過剰なくらい丁寧な商談、そして訪問営業の2倍の手数である。まずは対話準備の側面から解説を進めていこう。
関係が出来ていない顧客との対話の場合、訪問営業の倍の準備時間を取りたい。視覚情報からの仮説立案がうまく行かないからだ。であれば、徹底的に顧客情報を検索するしかない。まず入り口として、ホームページの会社情報から営業拠点や技術情報などを入手しよう。昨今では、M&Aが多いので、沿革のページは特に念入りに確認する。上場している企業ならば有価証券報告書や中期経営計画などもしっかりチェックする。
次に、会社名を新聞の電子版等のサイト検索にかけて直近のニュース検索だ。その次は当該顧客のメインの顧客、顧客の競合他社の名前も同様に入力してみよう。それらの検索結果が顧客の業界環境だ。必ずや商談のきっかけとなる情報に辿り着けるはずだ。
顧客の会社名をそのまま検索エンジンに入力するのも良いが、是非、「会社名 事例」と検索窓に入力してみてほしい。様々な他社の導入事例は、そのまま自社の商談に使える情報の宝庫である。
その次に行いたいのは社長の名前を検索エンジンに入力すること。FacebookやTwitter、LinkedInなどのSNSでの検索も行ってみたい。大企業はもとより、中小企業の社長でも専門誌等のインタビューに答えていたり、SNSで発信したりしているケースが多い。もしかすると会社の内部の写真なども写っているかもしれない。そこから、顧客の社内風土、気質、将来への打ち手などが見えてくることも少なくないだろう。提案の源となる企業の課題の仮説を作るのに大いに役立つ。
次は担当者個人だ。検索窓に会社名スペース名前を入れてみることは当然として、SNSでの発信なども探してみよう。見つからないことの方が多いが、うまくいくと共通の趣味が見つかるかもしれない。共通点のある人を好きになるという心理学上の類似性の法則は、関係構築に大いなる追い風になる。採用ページなど企業のホームページに載っている可能性もある。それらを話題にした場合、相手の立場からすると嬉しいものだ。自分に興味関心を持ってくれる人に興味を持たないわけがない。
余裕があれば、Googleマップ等で住所近隣や最寄り駅前の様子をつかんでおくと良いだろう。
オンライン商談の留意点
さて、最低でもこの程度まで調べてオンライン商談に臨もう。最初の接点が、テレアポなのか、オンラインマーケティングなのか、はたまたオンライン展示会なのか等のマーケティング要素については今回テーマが異なるので割愛するが、接点をきっかけにまずは電話かメールでアポイントを取り、オンライン商談ツールに招待するのが一般的だ。ツールは、様々なベンダーがしのぎを削り、何点か良いツールが出ているので相手のIT環境を確認の上用意したい。Zoom・Teams・MEETあたりのメジャーなツールを習熟しておけば十分だ。回線が切れないかどうか、明るさが確保できているかどうか、提案資料の共有方法なども事前にチェックしておこう。
オンラインで十分な情報収集が出来ていればスムーズな会話と商談ができるはずだが、何点かオンラインの特性を考えて、知っておきたいテクニックを6点お伝えする。
1.話す速さは、通常よりも8掛け程度のスピードにする。
オンラインだと、やはり伝わりにくい。一方的に話し続けるのではなく、「今までのところで何かご質問は」などの言葉を挟み、丁寧に話を進めていく必要がある。声の強弱・高低・緩急などを意識的に行わないと、提案の熱意や商品への想いが伝わらない。
2.話を聞く際には、大きくうなずく。
電話の場合は、適切なあいづちをいれるのが正しいのだが、複数名でのオンライン商談の場合、ミュートにすることがある。その場合は大きくうなずかないと、きちんと聞いている旨が伝わらない。少し大げさかなと思うくらいのうなずきが有効だ。
3.ヒアリングは、通常よりも丁寧に聞く。
営業をする方は、資料を準備しビジュアルに訴えかける事が出来るが、営業される方が資料を持っていることは期待できない。電話で復唱するのと同様、オンラインでも一つ一つの事項を丁寧に確認しつつ進めよう。
4.資料のフォントは通常より大きく。
資料を共有する場合、相手側のディスプレイ環境が分からない。大きなディスプレイやプロジェクタなどを利用してくれていれば問題はないが、中にはスマートフォンやタブレットで会議に臨む担当者もいるだろう。どのような環境であっても対応できるよう、フォントを大きくしておくに越したことはない。
5.自己開示は少し多めに。
相手の持ち物などから共通の話題を見出し、仲良くなるのも営業の重要な機能である。だが、非常にしづらいことは既に述べた。対策としては、自分から自己開示するしかない。画面から情報が得られない限り、雑談のきっかけは限られる。自己開示を通常よりも少し多めにして、相手に共通の話題を見つけてもらおう。お堅い商談だけで終わってしまったのでは、営業の機能不全である。
6.商談の最後の振り返りを徹底する
お互いの手元メモの状況などが見えないのがオンラインだ。先方がしっかりと決めごとを記しているかが分からないのだから、確認の作業を丁寧に進めなければならない。
これらの点に留意しながら、商談を進めていけば、通常の商談の6掛けくらいくらいの成果は得られるはずだ。たった6掛け程度?と考えるかもしれないが、入手できる情報が半分以下に限られている状況での6掛けだ。それくらいで及第点を出せばよいと考えるべきだろう。
それでも私たちは売ることに言い訳してはならない
6掛け環境しか得られないなら、結果が6掛けで良いのか?それはあり得ない。私たち営業は、結果に言い訳をしてはならない職種である。でも、安心して欲しい。リモートセールスには訪問営業に勝る圧倒的に優位な点があるからだ。それは手数を増やせるということ。移動時間は本当に無駄なのだ。
無駄な移動をせずに、顧客との接点を圧倒的に増やしていく事で、訪問営業の何倍もの営業成果を出すことが出来る。まずは、顧客と対話する回数を2倍にすることを目指してみよう。見積もりを出す業界であれば、2倍の見積もりを出すことを目標にすればよい。そうすれば、商談の質が8掛けでも、1.2倍の成果が出せるわけだ。
自席のパソコンの前に常時いることの圧倒的優位性を理解する必要がある。その条件下では、やることそのものが変わるという事実に納得する必要があるのだ。顧客についての情報を徹底的に検索し、その上で顧客接点をとにかく増やして、2倍の数の見積もりを提出しよう。冗談ではなく、キーボードのブラインドタッチのスピードが営業成績を変える世界だ。私はインサイドセールスの経験の中で、ほとんどキーボードのショートカットのみでパソコンを操作できるようになった。ブラインドタッチはあくまでも一例だが、いかに効率よく顧客とコミュニケーションし、限られた時間内で顧客接点を倍にするかを考えることが重要だ。
そうすることで、確実に訪問営業を越える、新しい顧客とのコミュニケーションの在り方、数字の作り方の法則が必ず見えてくる。人情は人情で大事に、割り切るところは割り切って、最大の成果を出していこう。