【第25講座】士業の為の営業処方箋 【第4章 最終回】


2013年12月23日 (月)

第3章に引き続き、AIDMAの話を続けましょう。(AIDMAについてはこちら

Attention(注目)のところは前章までのところで論じましたので、次にIのInterest(関心)の部分に歩みを進めます。

 

あなたの為だから

認知を得ることができたら、次に必要なのは興味を持ってもらうことです。興味を持ってもらえさえすれば、Desire(欲求)以降に進めていくのはそれほど難しくありません。逆に言うならば、興味を持ってもらうことが大変難しいと言えます。ここがマーケティングの非常に難しい点です。

興味を持ってもらうための唯一の方法は、クライアントに「私の困り事に対応できる人」で「私のためのサービスを持っている人」と感じて貰う必要があるのです。すなわち『他の誰のためでもなくあなたのため』を伝えなくてはなりません。

いま、あなたが困っていることに対して、私は集中的に勉強をしたプロフェッショナルです。という発信の仕方になります。

加えて、もう一つ付け加えなければならないエッセンスがあります。
それは、少なくともターゲットクライアントの存在する特定の領域において、他の同業他社と差別化をしなければならないということです。

言い換えると、差別化された領域に対して集中化しなければならないと言うことを意味します。

差別化と集中化どちらが大事かと答えるならば、明らかに差別化戦略でしょう。何故ならば、あなたでないと出来ない領域がビジネスにおける競争優位性の原点だからです。

しかしながら、営業処方箋の1で書きましたが、差別化そのものが極めて難しいのが士業の特徴。繰り返しますが、士業の売り物には根っこを同じ法律が走っているからです。

 

集中化戦略

従って、差別化戦略は二の次でまずは集中化戦略を取るのが定石。集中した領域について困っている人に、「あなたのために私はこういうシーンのプロフェッショナリティを持っています」と発信をする必要があります。

相続や成年後見、企業再生や産廃許認可などにある程度絞っている士業の方はそれなりに多いですが、これが集中化戦略です。残念ながら差別化はできていませんので、相続専門税理士、成年後見専門司法書士、産廃専門行政書士には、かなりの数お会いしたことがありますが、それでも「何でも出来ます」というスタイルの方よりは、余程ビジネスが上手く言っているのではないかとは思います。

 

差別化戦略の7つの類型

それでは、集中化戦略で、ある程度絞られた競合他士業に対して、どのように差別化をすればよいのか?
これには、様々な切り口が考えられますので、考えうる範囲を列挙してみましょう。

①経験による差別化(ハイレベル差別化)
会社員時代が長く、士業の仕事に直結する内容である場合は、その経験自体が差別化要因になります。
税理士であれば、ベンチャー企業の上場準備をやった事がある、コングロマリットのグローバル連結決算経験があるなどの経験値で差別化をするのは、関心得るための一つの方法です。
これが差別化戦略の中では王道であると言えますが、実際に実践できる方は限られているように思います。

②経験による差別化(キャリア掛け算による差別化)
業界の中での変わったキャリアを押し出す形の差別化です。士業としてのビシネス領域とは直接関係がないキャリアなどで特筆すべきものを押し出して差別化をします。
例えば、キャビンアテンダント出身の司法書士などは面白いですね。
この場合に注意すべき点は、「だから何なの?」ということをきっちり準備しておくことです。
上述のキャビンアテンダント出身の司法書士であれば「どんな仕事でも笑顔とおもてなしの心で解決します」のようなキャッチフレーズを利用し、何故ならば「キャビンアテンダントとしてお客様の満足度を基準に生きてきたので、それが体に染みついている」と言った感じでしょうか。

③地域軸での差別化
特定の地域においての有名人を目指します。
地域イベントの協賛は元より、ボランティアやPTA、町内会、商店街組合、消防団、市議会議員などの後援会長など地域での活動には必ず顔を出すなど、特定エリアでの名士を目指します。
特に得意領域を絞らず、よろず相談に対応して行くことが必要です。いわば、地域の診療所のような存在ですね。実際ベテランの士業の先生方は、最終的にこちらの差別化戦略を取っているケースが多いように感じています。

④能力による差別化
喋るのがうまい、書くのがうまいなどの基礎アビリティの部分で他人より秀でている人は、話す場、書く場を得ることで差別化をしましょう。
まず必要なのは、話す場、書く場を得るための情報発信と営業活動になります。
話すならば商工会や民間のセミナー会社への露出、書くならば出版社・雑誌社への露出が必須条件になると考えて良いでしょう。

⑤特殊分野徹底攻略による差別化
例えばある法律について、条文から判例から事例まで、どんなことを聞かれても困らないレベルでの知識を詰め込んでおくことによる差別化があります。
複雑かつニッチな分野であればあるほど、特に同業者を起点として重宝されます。難しい試験に合格した士業とはいえ、すべての法律のすべての条文などを覚えていることは不可能です。~の分野に関しての第一人者であることを発信していけば、その分野で困っている人には100%関心を持ってもらえるでしょうし、同業者でその分野にあまり強くない方からの紹介などで、認知を得る事ができるのは言うまでもありません。

⑥趣味や趣向による差別化
この差別化戦略は非常に難しく、下手に手を出すと信頼を損ねる可能性があるので注意が必要です。
私自身も、こちらの手段を応用的に使っています。私の場合は、利酒師という資格がそれに当たるのですが、実際日本酒を扱う飲食店の経営診断のお仕事を頂くこともあり、趣味とビジネス半々くらいの感覚でしょうか。
例えばグルメ関係であればソムリエやワインアドバイザー・野菜ソムリエ、他に考えられるとすれば、飛行機オタクや電車オタク、スポーツ関係などから興味を持ってもらう可能性を見出すのがこちらの戦略です。
一見個性を出すために良さそうな戦略ではありますが、全く関心のない人や嫌悪感をもよおす人がいる趣味の場合もありますから、ちょっとした尊敬を得られそうな資格や称号を取って、あくまでも極めて真面目に取り組んでいることを伝えられる趣味に収めておくのが懸命でしょう。ただ、真面目と不真面目を微妙なバランスでコントロール出来ると、お硬くてつまらないと捉えられがちな士業の中では、十分に好感を持たれつつ目立てることは間違いありません。
結局、最終的に同じような選択肢が並んだ場合、好きか嫌いかで判断をするのが人間というものですからね。

⑦パーソナリティによる差別化
⑥の戦略に近いものがありますが、もう少し先天的なものを指します。例えば性別や容姿・声などが上げられると思います。性別を除いては、全てのビジネスにおいて良いに越したことはありません。しかし、努力で身につけるのが不可能に近い領域ですので、持っていればラッキーと考えて、「こっそりと」押し出していくことは極めて重要です。写真や動画での露出を「こっそり」且つ積極的に行っていくのが得策でしょう。

性別に関して言うと、例えば中小企業診断士において、女性比率は3%程度ですから、これを全面に押し出していくのは言うまでもありません。女性向けの商売をしている企業は世にたくさんありますから、女性マーケットを熟知する努力をしていれば、自然と差別化になります。

 

以上考えうる7つの差別化戦略を書き記してみました。
これら7つの中から自分が持っている差別化要因に合わせて掛け算をして差別化をしていかなければなりません。1つだけ強烈に強いものがあれば良いのですが、中々差別化を出来るほどの1点の強みを見出すのは難しいものです。従って一点突破できる差別化要因がなければ、少なくとも2つ以上を掛け算してストーリー化しておく必要があります。

例えば「群馬県内を活動基盤とし、大企業の人事部出身で、特に大企業内部における労働問題の紛争解決については100例以上を解決した経験がある女性社労士」となると、まぁそうそうはいないでしょう。そうなると群馬県にある中堅以上の企業は注目せざるを得ません。その上で、ソムリエを持っていたりすると、酒好きの人事部長なら「是非顧問に!」とはならないまでも、面白いと思ってくれるのではないでしょうか?

 

ターゲットセグメンテーション

ただ、掛け算した結果として「マーケットが無い」では困ります。これらの掛け算は、結果として自らがターゲットとする顧客に対して「あなたの為に私は存在しています」というメッセージを含んでいなければならないのです。

例えば、鳥取県には本社を鳥取におく上場企業は4社しかありませんので「グローバル上場企業向けの監査に関しては誰にも負けない国際公認会計士」のニーズは残念ながら少ないと言わざるを得ません。

マーケティングには「ターゲットセグメンテーション」や「ペルソナ」等の概念があり、ターゲットを誰に置くかを徹底的に考えます。ただ、士業の場合は各資格によって法人向け・個人向けなどが一律ではないため、ここではターゲティングについて詳しく述べることはしません。

「あなたの為だから」というメッセージを、ターゲットとなる顧客が食いつく内容にしなければならない、言い換えるとターゲットが「自分の為にこの人が必要だ」と感じる差別化の掛け算シナリオを作る必要がある、という点に留めておきたいと思います。

 

○○専門の・・・

1点気をつけたい点を追記しておきます。このところ、○○専門の✖✖士という表記でプロモーションをされる方が散見されます。ターゲットセグメンテーションを行っているように一見すると見えるのですが、そこの根拠が弱いと逆効果になります。○○専門というからには、○○業を専門とする論理的根拠、その専門領域への造詣の深さの根拠が必要です。その上で○○業にはどのような特性があり、何故他業種と異なるアプローチが必要で、その領域を専門とする士業が必要なのかについて、完全に理解し、表現していないと、ただの「マーケティングのためのキャッチフレーズだな?」と胡散臭く思われても仕方ありません。

例えば、士業向け営業コンサルタントという方にお会いした時に思ったのですが、そもそも士業向けの営業は、BtoCとBtoBが混在している上、差別化が極めて難しい業界ですので、単なる企業の営業出身者が簡単にコンサルティングなどできるはずありません。弁理士と税理士と行政書士では営業手法やターゲットや攻略方法が全く異なり、それぞれに異なった施策が必要であることを最低でも理解し、その上でのコンサルティングができることが必要なのです。せめて、なにか1つでもサムライの資格を取って、自分でやってからコンサルティングをしてもらいたいものですね。

 

小倉の場合

ちなみに私の場合、

・上場企業のIT系・物販系の営業マネジメント経験がある
・新規事業の立ち上げて形にした経験がある
・企業の購買を内部で見てきた経験がある
・営業プレゼンや講演の経験が多数あるので、しゃべることには一定の自信がある
・MBAでケーススタディをひと通り学んできた

「法人営業・BtoBマーケティングのコンサルタントである中小企業診断士」
というのを意識しています。必要に応じて全国対応をしますので、特に地域に対しての差別化要素は入れていません。

ターゲット顧客は、
・売上高10億円を越えて組織として営業戦略を遂行するフェーズに来た、物販もしくはIT関連の企業
・そういった顧客を集めることの出来るセミナー会社
と考えています。

まだまだ道半ばなんですけどね。

 

 

最後に

さて、士業のマーケティングについて4回にわたって書いてみましたが、本当に難しいと言うのが率直な感想です。根っことなる製品差別化ができない以上、「人」による差別化を行い、積極的に情報発信するという方法以外に取り様がない部分はどうしても残ります。

とはいえ、私なりに考える士業の営業を考える際に必要なフレームはご提供できたのではないかと思っています。

 

最後に「ザイアンスの法則」に触れて終わりたいと思います。
「ザイアンスの法則」はマーケティングの世界の用語で、

1.人は知らない人には攻撃的、冷淡な対応をする
2.人は会えば会うほど好意をもつようになる
3.人は相手の人間的な側面を知ったとき、より強く相手に好意をもつようになる

という内容の理論です。

企業の営業マンは、このザイアンスの法則での優位を得るために、まずお客様に会う回数を増やす努力をします。例えば、わざと宿題を作って再度アポイントを取る理由を作るであるとか、近くに来たから寄ってみるとか、新しい商品の案内をしたいなどがそれにあたります。

そして、共にゴルフをしたり、酒を飲むなどで人間性を見せて好意を得ようとします。

士業においても、この法則が当てはまるのは言うまでもありません。最近盛んに言われている「facebookマーケティング」と言うのは、この法則を利用したマーケティング手法であり、いいね!は2.の為、発信は3.の為に行うのが定石です。

とは言え、やはりリアルに会うことに勝るザイアンスの法則攻略法はありません。

 

どうやって、ターゲットとなる顧客に高頻度で会うか。

時代は変わってもここに知恵を絞るのが王道と言えるのではないでしょうか?

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