【第2講座】【スポットコラム】研修講師とセミナー講師の違いと注意点


2013年06月02日 (日)

今年度に入ってから全3回のコースで、某医薬品企業の若手営業担当者研修の講師をして参りました。

先週にはその3回目の研修を行い、クランクアップとなりました。

 

研修講師という仕事は、実にやりがいがあります。

生来人にものを教えるのが好きな性分であったため、マネージャーとして部下後輩の指導育成をするのも好きでしたし、トレーニング担当のマネージャーをやらせて頂いた経験などもあります。従って、向き不向きの視点でも、好き嫌いの視点でも、私にとっては遅すぎた研修講師への転身といっても良い状況で実に楽しい仕事と言えます。

 

特に関西人として人にツッコミを入れることを得意としてきたこともあってか、私には一人ひとりの特徴をつかむのが非常に早いという特技があります。適切なファシリテーションで発言を促し、上手く合いの手を入れてあげる事が出来れば、一方的なコミュニケーションに比べて圧倒的に楽しい研修ができると考える次第です。

 

一方、私は公開セミナーの講師もさせて頂いています。こちらもこちらで実に楽しい仕事であり、良い企画書を作って、集客が上手くいって、良いセミナーができ、アンケート結果が良ければ非常に満足感が高い仕事です。何より、全く知らない人たちが私の話に聞きいって下さる状況は、話し手として何事にも変えがたい喜びと言えます。

 

ところで、研修講師とセミナー講師、同じような仕事と分類され、認識される事が多いのですが、本当にそうでしょうか?確かに人にものを教えるという意味では似た仕事であることは間違いありません。しかし、私の中では全く異なるものという認識です。

 

なぜなら、セミナー講師は一方通行、研修講師は双方向という受講者とのコミュニケーションスタイルの違いがあるからです。

セミナー講師の場合は、どうしても講師の持つノウハウや考え方などを聞くために申し込むのが一般的でしょう。多少の質疑応答やワークなどでコミュニケーションが発生することもなくはありませんが、ある程度は講師が一方的に話す時間が長いというのが印象です。最近では、セミナーにおいてもワークショップスタイルを取るケースも出てきてはいますが、やはり少数であり、圧倒的に先生という立場に立つ講師が一方的に伝えるケースが多いと言えます。

かたや、研修講師の場合は、一方的に教えるよりも、例えば問題を作って受講者に回答を問う形や、受講者同士でのグループワークや公開プレゼンテーションなどを導入して、積極的に議論や発言を促すスタイルのほうが喜ばれます。講師には一方的に教えるスキルよりも、ファシリテーターとして場を仕切る能力が求められるのです。当然自らのシナリオを伝えることも必要ですが、その企業の体質や風土などに合わせて上手く議論を導いて差し上げることが最も必要な要素なのではないでしょうか?

 

この2つの違いは、対象がホームかアウェイかの違いが原因となって発生します。セミナーはいわば講師のホーム。受講者同士は全く知らないが、講師のことだけはなんとなくイメージは掴んで参加を決定しています。講師のみがその場でほぼ唯一の知られている人なのです。自分自身のペースで進めることは可能ですが、どうしても冒頭は場が硬いと言わざるを得ません。

逆に企業研修の場合は、同じ会社の従業員同士ですから、当然受講者同士が既知の関係であり、講師にしてみると完全にアウェイです。講師がどんな人間なのかを皆さんでじっくりと見定められます。

 

従って、この2つは人前で話す仕事という共通点こそあるものの、置かれている立場は全く異なりますから、講師としては同一の対応であってはなりません。ホームの場合は、受講者は明日から使えるノウハウを持って帰ることを目的に集まっているので、出来る限りわかりやすく、数多くのノウハウやツールを持って帰って頂くことを念頭に入れて進める必要があります。アウェイの場合は、あくまでも講師はファシリテーターです。既に既知の関係の受講者の皆さんが、業務外の非日常の時間で如何に持っている知恵や経験を出しあい、創発をプロデュースするのが主な講師の仕事になります。講師の持つツールやノウハウが必ずしもクライアント企業の社風や仕事の進め方に合致するわけではないので、必要に応じてクライアント企業のやり方に迎合しなければなりません。もちろん、受講者のフェーズに合わせて、「教える」ということが必要なケースがありますが、その場合にも受講者同士のコミュニケーションによる創発は期待されるでしょう。もし講師の持つノウハウやツールが必要な場合には、研修ではなくコンサルティングとして業務の進め方について設計するところから行わなければなりません。企業の現状に即した形にノウハウやツールをフィットさせる必要があるからです。

すなわち、これら2つの話す仕事の根本的かつ大きな違いを認識し、適切なプログラムを作って進行をしないと講師として失格であるということになります。

 

私個人的に、あえてどちらが得意かと問われるとアウェイである研修講師のほうが性分に合っているかもしれません。冒頭に申し上げたとおり、私は受講者一人ひとりの個性にフォーカスしてインタラクティブにコミュニケーションをするほうが楽しいと感じる人間です。

一方通行的な講演も受講者の皆さんが懸命にメモを取ったりして下さっていたりすると、大変うれしいのですが、あくまでも一方通行ですので少し寂しい感覚になります。喋るのは好きなのですが、やはりしゃべりはコミュニケーションのツールですからね。

 

しかし、大好きな企業研修に際して1つだけ寂しいことがあります。それは、強く感情移入をしてしまう分、別れが寂しいということ。たかだか数回お会いするだけでも、かなり人となりがわかるので、研修をした方々の今後の成長を見ることが出来ないのが残念でなりません。会社員生活が長く、多くの部下後輩を指導してきたが故に、テンポラリーな存在である研修講師に若干の虚しさを感じてしまいます。

 

とは言え、好きで選んだ職業ですから、一回一回を大切にして、たった一日ででも人が変わるきっかけを作ることが出来ればこれ幸いと思い精進するのみです。今後もたった一日の美学を追求した最高のリアルコネクトを演出するといたしましょう。

 

新規事業の営業企画専門コンサルタント 小倉正嗣