【第36講座】企業内起業家という矛盾した存在の働き方


2017年07月05日 (水)

 

【企業内起業家へのメッセージ】

先日、一部上場企業社長の講話を聞く機会があった。企業内で新規事業の立ち上げを目指す企業内起業家(イントラプレナー)へのメッセージだ。

「経営者は休まない。私は経営者になってから、年数回の旅行以外は仕事を休んだことがない。多くの経営者が同じ状況なのではないか。皆さんは、社内起業家を志すメンバー。事業に没頭しないと企業内とはいえ、起業が成功することはないだろう。ワークライフバランスという言葉は、その道に没頭する人間には関係ない。イチロー選手がワークライフバランスを要求するだろうか?みんなで一流の経営者を目指して頑張ろうではないか!」

私も独立して5年になるが、その中で丸1日一つも仕事をしなかった日は、おそらく3日未満だ。講義やコンサルティング、執筆などの直接付加価値を生み出す時間は元より、メールの返信や資料の読み込み、営業活動、ホームページ更改、経理的な処理など、直接クライアントと接触しない裏方仕事も考えると、やることは山のようにある。おちおち休んでなどいられない。家族には申し訳ないが、起業した以上は、全てに仕事が優先する。先の上場企業社長も、同じか、あるいはそれ以上に厳しい心持ちに違いない。せめてこれくらいやらないと、と常に不安で仕方ないし、成功しないのではないかと考えてしまう。

「ここまでやってダメなら諦めもつく」と言うレベルまでやらない人間には、残念ながら勝負を仕掛ける資格など無いのではないか。

起業家は、皆似たような状況だ。言うなれば、ワークライフ ザ セイムとでも言うべきか。仕事と生活がほぼイコールの状態になっている。

 

【ワークライフバランス】

起業家ががむしゃらに仕事ばかりしている一方で、世の中はワークライフバランス花盛りだ。

私の講座の受講者の皆さんも、最近早く帰れと会社がうるさくて…と言う。今まで、長時間残業の温床だった営業部門などにしてみると、「そんなに簡単に切り替えできるか!」と叫びたくなるのもわからんでも無い。それでも、労働効率の改善とワークライフバランス重視のトレンドはしばらくは続くだろう。

当然、人口減少が続く日本においては、様々な立場の方々が働く機会を持つ為にも、ワークライフバランスが重要なのは言うまでもない。

労働の効率化を図りながら、総参加社会を作り出す事は強い社会のニーズとなっている。この時代の流れに逆らうことはできない。

 

【企業内で業を起こす存在の難しさ】

さてそれでは、企業内起業家(イントラプレナー)はどうすべきなのだろうか。
企業内起業家は、企業内で新規事業の立ち上げを求められる存在。概ね起業家と同程度かそれ以上のリテラシーが必要なビジネス領域だ。

一方で、企業内のサラリーマンであるのも事実。労働基準法に守られ、雇用保険に守られ、今はワークライフバランスに追従することが求められる立場でもある。
ワークライフバランスをとって、決められた労働時間の枠の中で、仕事をし、仕事の充実と生活の充実を共に目指すべきなのだろうか?それとも、起業家として寝食忘れ、成功を目指し、休む暇なく働くことが必要なのか?

企業内起業家は、どこまで企業内であることを優先すべきか、どこまで起業家として時間など忘れ、没頭し、死に物狂いをやらなければならないのか。

企業内と起業家。明らかに共存できない両者が共存する矛盾した存在こそが、企業内起業家である。

新規事業開発の支援を主戦場とする私にとっても、極めて難しい問題だ。

労働時間の考え方は会社によって、経営者によってバラバラだし、新規事業への思いも、担当によって、ポジションによってバラバラだろう。こうすべきと言う具体的な指針が社内から発せられることは考えにくい。

ただ、私が考える企業内起業家の働き方に対しての解ならある。

 

【イントラプレナーの働き方】

それは、どんなポジションであれ、企業内起業家を目指した時点で、プロセスへのコミットをする業務スタイルから、結果にコミットする仕事のスタイルに変えないといけないと言うことだ。
既存のビジネスの仕組みを回す業務においては、すでに仕事は確立され、明確な役割分担がある。その役割を頑張ったかどうかは、何時間仕事をしたかとか、何個作ったか、何件処理をしたか、のようなプロセスの数字で成果を計測することが可能だろう。プロセスをこなす事を効率的に行い、早く帰れば良い。

一方で、新規事業の立ち上げのフェーズにおいては、何個作ろうが、何時間やろうが、プロセスは関係ない。早期に立ち上げ、売り上げと利益を生み出す以外に求められる答えは無いのだ。事業を創り出す仕事に就く以上、残念ながらプロセスでいくら頑張っても評価を得ることは出来ない。
企業の内であれ、外であれ、起業家を名乗る以上、プロセス評価を求めることは許されない。結果のみを追い求めて行くべきだ。厳しい言い方になるが、立ち上がらない新規事業は、価値を生み出せていないと言う誹りを受けるだろう。

新規事業開発担当者は、休まず働くべきかどうか、私はそれを規定する立場にはいない。当たり前だが、それを決めるのはどう生きたいかを決める自分自身だ。
言えることはただ一つ、起業家を志した以上は時間という単位で仕事をするなということ。新しい価値を作り出すという孤高の働き方に没頭し、脇目も振らずビジネスに邁進してほしい。

 

【思いっきり仕事をしよう】

先の上場企業の社長の講話は、こう締めくくられた。
「経営者は常に学び続けなければならない。学びの無い者に事業の遂行を行う事は出来ない。学びもまた、仕事の時間なのだ。

私は3つの方向で学びを進める事を、自分の経験からお勧めしたい。

①本から学びを得ること

②とにかく多くの人に会うこと

③旅に出ること

それらの中で得た知見をもって、がむしゃらに事業立ち上げに邁進してほしい」

新規事業に関わったその瞬間から、結果責任を持つ必要がある。また、企業内起業を志すことが、働き方を変えるきっかけになるかもしれない。

労働時間などという尺度で仕事するのではなく、結果にコミットして、新規事業を立ち上げるという人生の一大ステージを、上記のような率先垂範の経営者の元で、思いっきり楽しんでみたいものである。