【第5講座】【連載コラム】新規事業に失敗しないために ③【新規事業を失敗させる罠】


2013年06月20日 (木)

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-新規事業を失敗させる罠-

 

筆者は、今までいくつかの新しい事業の立ち上げを経験した。また、中小企業診断士という資格に関わるものとして起業に関与した数も相応にある。その中で感じているのは起業に比べて新規事業のほうが圧倒的に有利な条件でスタートできるにも関わらず、失敗するケースが多いということだ。

新事業の立ち上げが起業に比べて有利であることは言うまでもない。新規事業はあくまでも企業内部の存在である。バックボーンとなる企業があり、まずは借入金ではなく出資という形で始められる。企業内の一部署としてスタートした場合などには、従来のプロセスと同じ予算取り方法を踏襲するため、必要な資金を得ることにそれ程の苦労は要らない。金融機関を駆けずり回り、親族一族に頭を下げ、事業計画書にダメ出しをされ、失望と希望の間で揺れる起業時の資金調達に比べてどれだけ恵まれていることか。

人材に関しても、一定レベル以上の人物をアサインさせてもらえることが多い。経営者自らが旗を振って始める新規事業の場合、社内でもトップレベルのパフォーマンスを出すプレイヤーのアサインメントや、社外から新規事業担当として優秀な人物を招致することも可能である。

もちろん執務スペースも起業に比べると圧倒的に有利な状況であることは言うまでもない。事務用品や消耗品などは言うまでもなく、倉庫や共有スペース、社員食堂なども完備された既存企業から流用することが出来る。自宅の一室からスタートするケースや、インキュベーション施設の一室からスタートするスタートアップ時とは比較のしようもない状況である。

ヒト・モノ・カネすべての要素で企業内の新規事業の方がスタートアップよりも有利であることはこれ以上述べるまでもないだろう。

 

新規事業の立ち上げに成功し、スピンアウトで起業するという形は、従業員側から考えてみると理想的な自己実現方法といえるかもしれない。何よりも自らの生活の悪化というリスクが殆どの場合考えにくいからだ。ただ、この環境自体が落とし穴であることはこれまでの文脈から捉えて頂くことが出来ただろう。

新規事業であれ、スタートアップであれ、ゼロをイチに変えるという非常に大きなエネルギーが必要である。そのエネルギーがどこから捻り出されるかというと、スタートアップの場合は非常にわかりやすく、夢や理念、そしてリスクへの抵抗だ。企業内の新規事業の場合はどうだろうか?もし、自らが発案した事業の実行を任された場合にはまだ夢や理念が明確にあるかもしれない。しかし、社命により新規事業を任された人物にはそれすら無い。その上、リスクへの抵抗というハングリーさが環境上全く得られないのである。

また、責任者となる人物の性質にも大きな差がある。起業家は起業した時点でリスクテイカーであり、自らの理念と生活の安定を天秤にかけて、理念である自らの「WANT」を重視する人物である。一方で新規事業の担当者は多くの場合会社員である。ハイインセンティブな企業の所属であれば一定のリスクテイクへの気概はあるものの、多くの日本企業の場合そのような環境すら極めて稀である。人生を賭してまでやりたい自らの「WANT」は持ち合わせていないケースが多い。リスクへの抵抗をする以前に、リスクにチャレンジをしないのである。

新規事業の立ち上げに際しては、スタート時のエネルギーをどのようにして捻り出すのかが最も重要なファクターであり、如何に最大エネルギーを発揮できるインセンティブを与えるかが成功への分かれ目となる。スタートアップにおける夢や理念、リスクと同等のエネルギーを生み出すインセンティブを会社員に与えるのが容易でないことが、新規事業の失敗率の高さを物語っているのだろう。

もちろん、人による素養の違いがあることは否定出来ない。任せる人を間違えた場合には悲劇である。夢々学歴や既存事業の実績などで事業責任者を決めてはいけないのである。