【第6講座】【連載コラム】新規事業に失敗しないために ④【創業社長が立ち上げる新規事業】
2013年08月05日 (月)
<「新規事業に失敗しないために」のまとめはこちら>
さて、前回までで、新規事業の失敗理由の多くが任せる人の問題である点を提起した。起業家に比べ圧倒的に有利な条件のもとで進められる新規事業であるにもかかわらず、うまくいかないのは新規事業責任者の熱意の欠如と甘えが最も大きな理由であるといって良いだろう。
もう一つ考えられるのは、経営者側の問題である。まず、新規事業を立ち上げるにあたっての経営者のバックボーンには3種類あると考えていい。自らが創業社長であり、ビジネスの立ち上げ時の厳しさを社内で最もよく知っている人物である場合が1つ目、自らは後継経営者であり先代から引き継がれる内容のキャッチアップを行なってきた場合が2つ目、3つ目はサラリーマン社長の場合である。ここにもう2つのファクターを加えるとするならば、上場非上場の区分と企業規模による区分があるが、これに関しては後ほど述べる。 三者三様の立場の違いは、新規事業の立ち上げの際に最も影響のあるファクターであると言えるだろう。各々の立場による新規事業立ち上げの失敗事例を考えてみたい。
① 創業社長の企業における新規事業の立ち上げの場合
この場合、創業社長自らが陣頭指揮を取るのが最も好ましいだろう。ソフトバンクの孫社長やファーストリテイリングの柳井社長がその好例といえる。(柳井社長は厳密には創業社長ではないが、現在のユニクロの基盤を作ったと言う意味では創業社長と考えることにする。)創業者が既存事業に成功している場合、明確に創業者が社内で最も優秀なビジネスマンであり、その人物が新規事業の陣頭指揮を取るのが言うまでもなく成功確率を最も高くする手法である。その場合であったとしても、必ずしも成功するとは限らないが創業者自らのチャレンジであるならば 問題は、創業社長が既存事業から抜けられない場合に、社内の別の人物に新規事業を任せるケースである。あるいは新規事業の領域について創業社長があまり詳しくない場合などにも任せるケースは考えられる。
このような場合、創業社長が自らの成功体験に引きずられるあまり、垂直立ち上げや1年以内の黒字化などを要求する場合がある。自らが創業した際には、ヒト・モノ・カネ全てが足りない中でのスタートアップであったことから、少なくともその全てが一定水準で満たされている新規事業がうまくいかないはずがないと言うのがその根底となる理屈である。 しかし、残念ながら素直に二匹目のどじょうが釣れてくれることは極めて稀だ。本人の力量や執念もあるだろうが、同時に時流と運、そして周辺環境というものも重要な要素であったはずである。任せた人物が思うような結果を出せず歯噛みをするシーンも多いことだろう。
そのような場合の失敗への序章は、任せた新規事業責任者の飾り立てた報告から始まる。事業責任者とその周りを取り囲む参謀は、垂直立ち上げへのプレッシャーに苛まれ、失敗した場合の自らの立場を鑑み、少しでも事業がうまくいっている様に数々の言い訳と飾り立てた報告書を上げてくることになるだろう。 事業計画書などは、正直な所数字のお遊びにすぎない。殆どの場合が砂上の楼閣である売上と利益により、数年で投資に対しての回収が可能となる絵となっているはずである。 そのうち徐々に徐々に計画書との乖離が見え始めるが、責任者は様々な他責の理由をつけて計画書を後ろ倒しの方向にリバイスしてくるだろう。そうなったら、結末までは申し上げる必要はない。
経営者は、現実を知らぬまま新規事業からの撤退を宣告せざるを得ないのである。 ここまでわかりやすくダメな失敗事例になることは少ないだろうが、多かれ少なかれこのような状況に陥る新規事業は多いのが現実だ。 原因は明確に経営者にある。経営者が起こす過ちは以下の点である。 1)過去の成功体験から派生する、成功への過度の盲信 2)事業計画書レベルでのコミュニケーションに終始し、KPIレベルにまで落としたコミュニケーションが出来ていない(あるいは出来ない) 3)現実的な計画より、耳心地のよい垂直立ち上げ計画を好む これでは任せた方以上に、任されたほうが不幸である。