【第7講座】【スポットコラム】ビジネスにおいて、経験と学習はどちらが大切か?


2013年08月06日 (火)

ビジネスという現場において、最も武器になるのは経験だろうか、それとも学習だろうかという点について少々まじめに考えてみたいのです。

 

答えを先に行ってしまえば、圧倒的に経験の方が大事であると私は断言します。よく例に出される「野球のルールを死ぬほど勉強したら野球がうまくなれるか?」という問いが全てを物語っているでしょう。人は経験則を得て、経験値を上げることによってしか進化しないからです。百聞は一見にしかずと言いますが、百見は一やってみるにしかずとも言えると考えています。

 

では学習は必要ないかというとそうではありませんね。ビジネスには原理原則があり、その原理原則を無視して進めることはできません。例えば、ファイナンスや商法・労働法などに関する初歩的な知識は、最低でも全てのビジネスマンは持っていなければなりません。現代では、WORD・EXCEL・POWERPOINNTなどのオフィスソフトの必要十分な知識も持っていないといけませんね。これらを持っていないのならば、ビジネスマンのスタートラインに立ってすらいないと言っても過言ではないでしょう。こればかりは経験ではどうにもならないのです。学習しかありません。楽天さんやユニクロさんでは英語も入るでしょうか?企業の部長格や役員クラスでファイナンスや労働法を理解していないという方がたまにいらっしゃいますが、言語道断です

 

もう一つ学習しておいたほうが良いのが経営学・商学ですね。人事やマーケティングや戦略論などを含めた広義の経営学です。何故かを説明して行きましょう。まず、殆どの場合、ビジネスにおける物事の考え方は医者と同じで帰納法であることを認識する必要があります。医者は基本的に、「この薬はラットでうまくいった、マウスでうまくいった、猿でもうまくいった、だから人でもうまくいくだろう」とか、「この薬は、Aさんの治療がうまくいった、Bさんの治療もうまくいった、Cさんの治療もうまくいった、だから大体の人にうまくいくだろう」と言った経験則の積み上げで判断をします。これが帰納法と言われる考え方です。何故帰納法を使うかというと人体に対しての絶対的な解がないからです。絶対的な解がないから例を積み上げてある程度の一般解を導き出そうとするのです。(帰納法の反対の概念として演繹法と言う考え方がありますが、ここでは割愛しましょう。)

 

数学や物理学は違いますよね。1+1=2であるとか、円周率=3.1415・・・と言った絶対的な解がありますから。(これらが絶対ではないと言う学問もありますが、本旨とは異なりますので割愛します。)

 

ビジネスが相対する相手であるマーケットも医者にとっての人体と同じです。絶対的な解というものはありません。だからこそ経験の中で一定の成功法則のようなものを自ら導き出して行かなければならないのです。経験が大事というのは冒頭に申し上げたとおりですね。しかし、一人の人間が経験できるケーススタディというのはそうは多くありません。だから過去の人達が成功したり失敗したりしてきたことを、例として学習するということに意味があるのです。いわばこれが経営学なのです。経営学を学習することで、他人の経験を自分のものとしてある程度取り入れることが可能になります。MBAなどの教育は、他人のケーススタディを蓄積し、研究している教授が、それらをまとめて教えてくれるわけです。

 

重要な意思決定に際して、全く情報がないのと、他人の物とはいえ過去の経験則を知っているのとでは随分と結果が変わってくるはずです。これが経営学を学習する効果と言えます。

 

しかし、経営学というのは所詮他人が行った結果の経験則です。絶対法則ではありません。いくら経営学を勉強しても経営者になれないのは先の野球のくだりと同じです。リーダーシップ論を教えている大学教授にリーダーシップの欠片もないなんていうことは日常茶飯事でしょう。マーケティング論を教えている教授が、学生のニーズに合わせた授業をおこなっていないというのもよくある話です。いや、特定の誰かを指しているわけではないですよ。一般論としてです。

なので、学んだ後には必ずやはり実行して経験をしないといけないのです。そして、自らの中で経験則を作り上げる必要があります。

 

やはりビジネスを行うためには、経験と学習の双方の時間をバランスよく取る必要があるようです。まずは学習から得られる原理原則の理解と、過去のビジネスマンたちの経験則の集まりであるビジネスのフレームを理解する必要があります。その上で、その内容を自分のケースに当てはめて実行してみる。その上で自分なりの価値判断をする必要があるのです。

 

学習なしに経験をするというのも、ひとつの手ではあります。学習よりは経験のほうが大事であることは既に述べたとおりです。ファイナンスや経営学など勉強せずに、有名経営者やスーパービジネスマンになった人は数多くいるでしょう。(昔の叩き上げのことであり、最近ではあまりいないでしょうが。)しかし、往々にして知らないがために遠回りすることが多いのも現実です。

 

ただ、学習のない経験だけのコンサルタントはダメですね。一人の経験というのはあくまでその個人の体験にすぎませんから、多くの人に当てはまるかどうかはわからないはずです。従って他人様にコンサルティングをする人間は、医者と同様に多くのケースを帰納法的に仕入れておく必要があります。自分はこうした、だから成功した、だからあなたも成功しますといった論法のコンサルタントは願い下げでよろしいのではないでしょうか?

 

経験無しに学習だけで語るのはやめたほうがいいですね。それをやって良いのは学問としてビジネスに相対しているビジネススクールの教授くらいのものです。それでも自らの経験で話せないと説得力のある講義は出来ないなぁと言うのが本音ですね。願わくば、サラリーマンやって、2・3回くらいヘッドハンティングで転職して、その上で起業して、成功してその上で学問に立ち向かっている方の話を聞きたいところです。これこそが経験と学問の高度な融合といえると思います。

 

私達、士業も注意しなければいけません。士業というのは所詮学習の世界の住人達です。学習の世界から出たらその瞬間に評論家になってしまいます。学習を経験で補完する、あるいは経験を学習で保管しているスタイルの士業であれば、実に理想的ではありますが、ろくにビジネス経験がない人が、経験のないビジネスにしたり顔で入っていくのは士業の評価を貶めることに繋がりますのでやめたほうが良いでしょう。知識の範囲、あるいは経験をした範囲の中でアドバイスをしていくのが理想的だと思います。特に弁護士・税理士などの高度な専門家は注意が必要です。その世界にどっぷりでないと取れない資格のホルダーは、その知識自体に大きな価値があります。しかし専門領域を明確にして、バリューチェーン側にはあまり踏み込みすぎないようにしないとやけどを負います。ほとんどの方が、いわゆるバリューチェーン内の業務を実践したことがないかと思いますので。

 

専門家を利用する側の人も注意が必要です。税理士に財務相談・税務相談をするのは正しいです。大いに活用すべきだと思います。しかし、「経営相談」となると話は変わります。経営というのは、マーケティング・営業・製造・開発・物流・IT・人事などが複雑に絡み合った存在です。あくまでも、税理士の資格がカバーしているのは、財務・税務・会計であって上記バリューチェーンの内容まで税理士に相談するのは間違っています。

しかし、バリューチェーンの内部に対しての経験を持つ税理士ならば、もちろん相談してよいと思います。ビジネス経験を持ち、且つMBAなどを持っている税理士がいたら最高でしょう。なかなか難しいですが。私の友人で、IT技術とWEBマーケティングの経験のある税理士がいますが、こういった方には比較的広い範囲で相談できるでしょう。そういった方に「経営相談」はすべきなのです。

 

ビジネスにおいて、経験と学習はどちらが大切か?

結論は最初に書いたとおり、経験です。しかし、学習なき経験は本質をつかむのに遠回りをしてしまいます。先人の知恵を取り入れず、自らのトライアンドエラーの中のみで進む必要が有るためです。もしかしたら本質をつかむところまで辿りつけないかもしれません。

 

もちろん、スティーブ・ジョブズのような一部の天才は、他人の経験則に学ぶのではなく、自らの考えのみでビジネスを作り出していくことも可能でしょう。そういった方は、ま、私のブログなど読まずに新しい世界を作ることに邁進して頂ければ良いのではないかと思います。

 

少なくとも我々一般人においては、ビジネスの原理原則とビジネスのフレームを学習し、その上での様々な経験を積んでいくことがビジネスの成功の一筋なのではないかと考える次第です。

新規事業コンサルティング専門家 小倉正嗣