【第19講座】間接材コスト削減の絶対法則(中編)
2013年10月03日 (木)
直接材、すなわち原価となる原材料や部品の購買と、間接資材購買の大きく異なる点は何だろうか?
それは、買うという行為を行う人が直接材の場合はある程度絞られているのに対して、間接材の場合は買うという行為を行う人が極めて多岐にわたる点である。
直接材の場合、そのほとんどは設計や開発が仕様を決めたら専門の購買部を通して発注を行う。しかし、間接材は違う。購買部を通ることすら稀で、そのほとんどが部門上長の決裁で勝手に発注されている。
少し考えればわかるはずだ。例えば付箋紙を買いたいと思った営業マンは、購買部にわざわざ依頼を出すかというとそうではない。部門で決裁する仕組みを持っているか、勝手にコンビニで買って経費精算する。
出張の旅費交通費はどうだろうか?これも社内に決裁の仕組みを持っていない場合には、自ら仮払いをして経費精算するだろう。いずれも購買部門で扱うような商品ではない。
他にも、パソコン・サーバーや人材派遣などの購入・契約を考えてみよう。さすがに個別の部門決裁という会社こそ少ないとは思うが、情報システム部や人事部・総務部などで手続きをするものの、要求は各部門から出てくるものであるケースが多い。
従って、間接材購買の特徴は、直接材料と異なり会社員の誰もが購入する可能性を持っている商材とも言える。それがそのまま、間接材購買の問題点を生み出し、コスト削減の材料になるのだ。
シンプルに結論を申し上げると、間接材購買コスト削減の1つ目の絶対法則は「購入する商品を揃える・数をまとめる・サプライヤーと交渉する。」以上である。ふざけているわけではない。至極まじめにこれだけで相当にコストダウンが出来ることは確実だ。
いわゆる集中購買、直接材では当り前に行われている行為である。ただ、この間接材集中購買が実に難しい。企業規模が大きくなればなるほど、ほとんど不可能に等しくなる。私がアスクルに勤務していた時の話だが、『うちは、集中購買出来ています!』と言っている大企業で、勝手に部署ごとに作られたアスクル口座がなかったためしが1度もなかった。中央で集中購買をしているつもりになっていても、現場は現場の論理で間接材購買をしているのが現実だ。
面白いエピソードがある。
私が、間接材購買のコスト削減のコンサルで入ったある現場の話。1部上場企業の購買部の部長と現場の購買状況のリサーチに行った際に、事務用品や備品の発注を担当している一人の女性社員から話を聞いた。会社では事務用品関係は大塚商会の「たのめーる」で集中購買をしているのだが、その女性は「たのめーる」ではなく「アスクル」を率先して使っているという会計データがあったからだ。全員が「たのめーる」を使えば、年間相応にコスト削減が進むことは既に試算されている状況である。
ヒアリングを進めていく中で、その女性をアスクルに駆り立てていたものがわかった。それはアスクルのポイントサービスである「アスクルスイートポイント」だったのだ。ポイントを貯めれば、オフィス内でのちょっとした休憩時間の際に食べられるスイーツに変換できるというプログラムで、オフィスで働く主に女性から非常に人気の高い販促サービスである。
その女性は、購買部長を相手に「私達の月に一度のささやかな楽しみを奪うつもりですか!」と激昂してのたまわったのだから驚きである。
むろん購買部長にも大義名分はある。アタリマエだが会社のコスト削減である。しかし、この部署の購買ボリュームでどれだけのPLインパクトが出せるかというと甚だ疑問だ。女性陣のささやかな楽しみを奪い、奪うための説得に時間をかけ、文句を言われて嫌われることと天秤にかけた時に、果たしてそれでもやる価値が有るのだろうか?購買部長がすごすごと引き下がった気持ちはちょっと分からないでもない。
しかし、塵も積もればマウンテンである。
年間10万円のコスト削減を50の部署で行ったら500万円、50万円ならば2,500万円である。もちろん事務用品だけが対象ではない。トナーや清掃用品などの各種消耗品から、机や椅子、パソコンなどの少額固定資産、工場用の工具や安全用具、研究用の試薬や理化学品など、部門最適で購買しているものは大量にあるだろう。まとめて中央で統制すればかなりの金額になるのはわかるはずだ。
購買という仕事の面白いところは、社員全員がプライベートでは購買者であるため、必ず買うという行為に対し「一家言」持っている点である。反面営業という仕事はプライベートで行うことはまず無い。対比すると実に面白いものである。
特に家庭の主婦が間接材購買に携わっていると厄介だ。下手な購買の担当者よりも上手く安く商品を購入する術をよくご存知である。サプライヤーの営業担当者と上手く交渉し、特別条件を引き出すリテラシーが、日常生活の中で高度化されているのだろう。
工場の職人さんも中々に手強い。使い慣れた工具でないと生産性が落ちると言って標準工具を使ってくれないのはアタリマエである。人によっては「慣れない工具に変更して、怪我をしたら責任はとってくれるんだろうな」とのたまう。これも中々集中化・標準化に持っていくのは難しいケースだ。
このような状況から、間接材購買の集中化はやはり非常に難しい。ただ、集中化が出来さえすればきちんとコスト削減の効果を享受することは間違いなく可能である。なぜならば、間接資材にきちんと手を付けている会社がそれほど多くはないからだ。これは私の経験則から導き出された結論である。
前編で述べた私の営業リテラシーが役に立った点はこういうところである。強硬姿勢で上から締め付けても、現場は反抗し、必ず抜け穴を作ってくる。一番いいのは、自ら営業に徹して、お願いし説得に回るという姿勢を貫くことだ。そうすれば未来は開けてくるものである。
社員全員が単一プラットフォームできちんと購買出来るように準備し、利用をお願いしてまわり、購買価格が下がり、オペレーションが楽になることさえ伝われば集中購買は第一歩を踏み出したことになる。継続的に行える仕組みさえ作ってしまえば、あとはコンサルが離れても、ルーティンを行っていく中で必然的にコストは下がっていくのだ。
購買仕事でも営業リテラシーは必須である。おわかり頂けただろうか?
後編では、もう一つの間接材コスト削減の絶対法則をご紹介していきたい。
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